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札幌地方裁判所 昭和46年(行ウ)15号 判決 1973年10月23日

恵庭市大町三三番地

原告

第百北海道土地相互株式会社

右代表者代表取締役

長谷川勇

右訴訟代理人弁護士

小野寺彰

札幌市中央区大通西一〇丁目

被告

札幌南税務署長

大居啓司

右指定代理人

宮村素之

阿部昭

岸下芳男

鈴木智明

広田四郎

千葉満幸

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一  被告が昭和四〇年一二月二五日付をもつてした原告の同三八年七月八日から同三九年三月三一日までおよび同三九年四月一日から同四〇年三月三一日までの各事業年度の法人税等に関する各更正処分はいずれも無効であることを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文と同旨。

第二当事者の主張

(原告の請求原因)

一  原告は土地家屋の売買斡施および宅地の造成販売を事業目的とする法人である。

二  原告は昭和三八年七月八日から同三九年三月三一日までの事業年度(以上初年度という。)の所得金額および法人税額について確定申告をしたところ、被告はこれに対し同四〇年一二月二五日所得金額を金八五〇万一六五円、法人税額を金三四三万二、一八〇円とそれぞれ更正した(その経過は別表一記載のとおりである。)。

三  次いで原告は昭和三九年四月一日から同四〇年三月三一日までの事業年度(以下次年度という。)の所得金額および法人税額について確定申告をしたところ、被告はこれに対し前同日所得金額を金一、七八〇万四、〇〇二円、法人税額を金六九八万七、一三〇円とそれぞれ更正した(その経過は別表二記載のとおりである。)。

四  本件更正処分の違法

(一) 原告の前記両年度の法人税確定申告には、左記の農地売買による所得が除外されていた。

1 初年度 中村吉蔵、薩摩茂、村中清槌、手島知雄ら各所有地の各一部

2 次年度 村中金松、薩摩茂、大浅佐喜二郎、川端次吉、中村竹治、川原博、西根ちや子、水林清松ら各所有地の各一部

(二) 右農地購入価額の総額は、初年度分については金一、一六〇万円、次年度分については金三、七三六万八、六〇〇円であつた。

(三) 前記確定申告後、被告は原告の前記農地取引による所得脱漏の事実を把握し、その所得のみについて更正をしたのであるが、その際農地購入価格が真実は原告主張の前記(二)のとおりであることを承知しながら、不当にもこれを認めず、その購人価格は初年度分については金六六五万円、次年度分については金一、八一七万八、三六〇円と過少に認定し、その結果原告の所得金額を誤認して前記各更正処分をしたものである。

(四) したがつて、適正な所得金額は、被告の各更正にかかる所得金額から、原告主張の購入価格との被告認定の購入価格と差額分を差引いた金額というべきであるから、初年度分については金三五五万一六五円(8,500,165-(11,600,000-6,650,000)=3,550,165) 、次年度分については損失金一三八万六、二三八円(17,804,002-(37,368,600-18,178,360)=-1,386,238) となるはずである。

(五) そして、行政庁が具体的な行政処分をなすに際し、その職務の誠実な遂行として当然に要求される程度の調査を行えば、到底判断の誤りを犯さなかつたであろうと考えられる場合に、右の程度の調査を尽さなかつたために判断の誤りを犯したときは、その処分に重大かつ明白な瑕疵があると解すべきところ、本件においては、被告の各更正処分がなされたころ、税務当局によつて原告に対する農地売渡人(前記中村吉蔵ら)に対して所得税の納税指導がなされ、その結果原告主張のような売買価格による所得税の申告、納税がなされたのであるから、被告としては右の程度の調査を尽せば、前記農地の購入価格が原告主張のとおりであることを容易に知りえたはずであるのに、その調査を尽さず、購入価格を誤認して本件各更正処分をしたものである。したがつて、本件各更正処分には重大かつ明白な瑕疵があり、無効というべきである。

五  原告は、現在、滞納処分によりその所有財産の差押えを受けている。

六  よつて、原告は被告に対し本件各更正処分の無効確認を求める。

(請求原因に対する被告の認否)

一  請求原因一の事実は認める。

二  同二の事実は認める。

三  同三の事実は認める。

四  同四(一)の事実中、原告がその主張の各年度において主張の者らと農地売買を行なつた事実は認めるが、その余の事実はは不知。

同(二)の事実は不知。

同(三)の事実は否認する。

同(四)の事実は否認する。

同(五)のうち、中村吉蔵らに対し納税指導をしたことは認めるが、その余は争う。

五  同五の事実は認める。

(被告の主張)

本件各更正処分に無効事由が存在する旨の原告の主張は、その主張自体理由がないというべきである。すなわち、

(一)  特定の行政処分について、無効の主張が許されるかどうかは、当該処分の性質、不服申立制度が処分の違法を是正するうえにおいて果すべき役割の重要性、当該処分の瑕疵そのものの重大性、明白性等一切の事情を総合勘案して判断すべきものである。ことに、所得の認定に関する課税処分は、本来、大量かつ回帰的になされるべきものであるうえに、課税要件の充足の有無に関する事実は、課税の原因となるべき事実を直接知りうる立場にある納税義務者の適正な協力なくしては、これを正確に把握することが困難であるから、納税義務者の申し立てる行政上の不服申立手段が処分の違法を是正するうえにおいて果すべき役割は重視されるべきであつて、みだりに課税処分の無効を理由に出訴できるものとすることはできない。したがつて、この種の処分につき課税要件の不存在を理由にその無効を主張するには、行政上の不服申立手段を尽さないことにより、または出訴期間を徒過したことにより出訴を許さないとすることが、納税義務者にとつて著しく酷であると認められるような重大な瑕疵の存在することが、処分の外形上客観的に明らかであることを具体的事実にもとづいて主張することを要するものと解すべきである。

しかるに原告は、本件各更正処分の無効事由として、単に被告が農地売買による所得を算定するための購入原価をことさらに低額に認定したことを抽象的に述べるだけであり、処分についての重大な瑕疵の存在が処分の外形上客観的に明白であることを具体的事実にもとづいて主張しているとは認められない。

(二)  のみならず、仮に本件各更正処分において原告の所得金額に誤認があつたとしても、その瑕疵は、事実関係を精査してはじめて判明する性質のものであつて、いまだ重大かつ明白な瑕疵とはいえないから、更正処分を無効ならしめるものではない。

第三証拠

(原告)

一  甲第一号証の一ないし四(写)提出。

二  証人渡辺光成の証言援用。

三  乙号証の成立はいずれも認める。

(被告)

一 乙第一号証の一ないし五、第二号証の一、二、第三ないし第七号証、第八号証の一、二、第九、第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二号証、第一三号証の一ないし三、第一四号証の一、二、第一五号証、第一六号証の一、二、第一七号証の一ないし三、第一八号証、第一九号証の一、二、第二〇、第二一号証、第二二号証の一ないし四、第二三ないし第二五号証、第二六号証の一ないし三、第二七号証の一、二、第二八号証の一ないし四、第二九、第三〇号証、第三一号証の一、二、第三二ないし第三七号証提出。

二 甲号証の原本の存在と成立はいずれも不知。

理由

一  原告主張の請求原因一ないし三の事実ならびに原告が初年度(昭和三八年七月八日から同三九年三月三一日までの事業年度)および次年度(昭和三九年四月一日から同四〇年三月三一日までの事業年度)において原告主張の農地売買を行なつた事業についてはいずれも当事者間に争いがなく、また本件弁論の全趣旨によると、原告の右両年度の法人税確定申告には右農地売買による所得が除外されていたことが認められる。

二  そこで、本件各更正処分に原告の主張する無効事由が存在するかどうかの点について検討する。

なるほど証人渡辺光成の証言とこれによつて成立を認める甲第一号証の一ないし四、成立に争いのない乙第八号証の一、二、第一一号証の一、二、第一四号証の一、二、第一五号証、第一六号証の一、二、第一七号証の一、二、第一九号証の一、二を総合すると、前記農地売買の総購入価格が原告が本訴において主張する価格にほぼ合致することが窺われるけれども、さらに進んで被告が右購入価格を過少に認定した結果原告の所得金額を誤認して本件各更正処分をなすに至つたものであることまで認めるに足りる証拠はない。のみならず、一般に行政処分が無効であるというためには、処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大かつ明白な瑕疵がなければならず、右瑕疵が明白かどうかは処分成立の当初から誤認であることが外形上客観的に明白であるかどうかにより決すべきものと解するのが相当である(最判昭和三六年三月七日民集一五巻三号三八一頁参照)ところ、仮に被告が原告主張のとおり所得金額を誤認したものであるとしても、本件各更正処分の当初から外形上客観的にその誤認が看取しうるものであつたことを認めるに足りる証拠はない。まれ、被告が原告の主張するようにその職務遂行上当然要求される程度の調査をしなかつた結果誤認を招来したものと認めるべき証拠もない。

そうすると、本件各更正処分に原告の主張するような無効事由が存在するものとはとうてい認めることができないといわなければならない。

三  よつて、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白石嘉孝 裁判官 大田黒昔生 裁判官 渡辺等)

別表一

<省略>

別表二

<省略>

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